ニュースリリース

宇宙でのマウス飼育装置用飼料の開発・生産に貢献
2016/8/29

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が国際宇宙ステーション(以下、ISS)の「きぼう」日本実験棟でマウスの長期飼育ミッションを行っています。そのマウスの飼育装置の開発を三菱重工業株式会社(以下、MHI)が担当し、MHIからの依頼で宇宙用の飼料の開発・製造と給餌器の開発においてオリエンタル酵母工業株式会社が参画しました。

提供JAXA/NASA

宇宙環境では、骨や筋肉の脆弱化、免疫機能の低下、バランス感覚の低下、などの変化が観察されています。これらの変化は地上で高齢者に見られる変化が加速されたものと似ています。宇宙で見られる変化は、マウスでも同様に起こることが明らかになっています。そこでマウスを使った研究の成果は、宇宙環境で起こる生体の変化を解明し、加齢に伴う現象の予防や改善などにつながることが期待されています。

きぼう内で使用される飼育装置
(提供JAXA)

今回の長期飼育ミッションではマウスを宇宙で長期飼育するため、MHIが飼育装置を開発しました。この飼育装置には遠心機が付いており、微小重力環境(地球の100万分の1ほどの重力)と人工重力環境(地上と同等の重力)の両方でマウスを飼育することができます。その飼育装置を用いて今回JAXAは、12匹のマウスを「きぼう」で約40日間飼育します。そのうち6匹は微小重力環境で、残りの6匹は人工重力環境で飼育し、重力の影響の違いを比較します。

マウスを用いた実験は日本では初、ISSでの哺乳類の人工重力実験は世界初となります。 

今回の「きぼう」内で使用するマウスの飼育用飼料とマウスの宇宙船での打ち上げおよび地球への帰還時用飼料を当社が開発・製造しています。微小重力環境では、通常の粒状飼料だと給餌器内で確実に保定されず、マウスは食べることができません。そこで飼育装置内では飼料が浮遊しない構造の給餌器が必要となり、それに合うように中空の円柱状に成型した特殊な形状の飼料を開発しました。更に飼料の交換が1週間に1回で済むように、所定の大きさに切り出して、食べた分だけバネでケージ内に押し出すしくみにしました。飼料の成型では、原料に天然物を使用しているため、毎回同じ形にするのが難しい中、MHIからの飼料サイズに対する要望水準が高く(0.1mm単位)、均一の大きさにすることが困難でした。しかし、道具や作り方の手順を変えるなど試行錯誤を繰り返し、均一の飼料を製造することに成功しました。
 宇宙用の飼料は、地上で行われる実験結果と比較するため、一般品と同様の成分を有するよう配合しています。しかし、今回開発した飼料は、一般品とサイズや形状が異なるため、表面部と中心部で乾燥スピードが異なり、ひび割れが起きてしまうなどの問題がありました。そこで飼料の乾燥温度や時間など、乾燥条件の設定試験を200回以上行い、ひび割れが起きない乾燥条件を確立することができました。
 これらの問題をクリアし、飼料を完成させるのに1年を要しました。

一般品
(1個 3~5g)
宇宙飼育用飼料
(1個 35g)
打ち上げおよび帰還時用飼料
(50g)

さらに、飼育装置内に設置された給餌器の開発にも当社が関わりました。微小重力環境でもマウスが食べやすく、「きぼう」での作業者が扱いやすい給餌器にするべくMHIと共同開発しました。

給餌器
(提供JAXA)
飼育装置内部
(提供JAXA)

動物・飼料・器材とトータルで開発・製造・販売している当社の技術を駆使し、今回のISSにおけるマウスの長期飼育の実現に貢献しました。  当社の製品が、これから始まる研究の一助となることを願っています。